私WooはコミックスタジオEX4.0を使用して、多層レイヤー構造の背景作画を行っています。
その理由は第一に、舞台装置である背景画の物体ごとにレイヤーを分けることでキャラクターの柔軟な配置に対応できることです。
第二には背景をパーツごとに作画することで、それぞれが独立した素材として再利用が可能なことです。
そして、第三には部分的な処理変更に柔軟な対応が効くためです。
このページではそれらについて実例を用いて解説しています。
私Wooの場合以下のレイヤー順序を個人のローカルルールとして用いています。
この順序でレイヤーを一つのフォルダに格納します。またトーンはひとまとめにサブフォルダに入れておきます。
モノクロの背景の場合、トーンは線画の上からも重ねられますが、あえてこの順序を守るのはカラーの作画に準拠しているからです。カラーの場合には線画の上に色を置いた場合に乗算やオーバーレイなど重なった線画に対する処理が必要になりますが、通常の彩色と線画の上から重ねる効果とは通常分けられます。そのルールを遵守することでカラーライズや別ソフト(Photoshopなど)の特殊効果に対応が容易になるのです。
背景作画を多層構造のまま維持して統合しないメリットの一つに、部分的な処理のパターン変更への対応があります。
画像はラジオの録音スタジオですが、上下の画像でサブのガラスのみ処理を変えています。これらの表現は作品のリアリティレベルやクライアントの好みなどによっても変わってきますが、レイヤーが非統合であれば、たった一枚のレイヤーを差し替えるだけでいつでも変更が可能です。
(ちなみに下の画像の漫画的記号的な処理の方が実は数倍手間がかかりますw)
2)のラジオスタジオの画像は大まかに分けて画像の様に9つのパーツに分かれています(画像をクリックすると拡大されます)。
可動したり移動する可能性がある物はもちろんですが、間にキャラクターが挟まる
物体は必ずパーツが分かれています。イスとテーブルの間、壁の向こうにあるサブなどです。これをあらかじめ分けて描くことでキャラクターレイヤーへのマスキングの処理が最小限で済むのです。
(実際には卓上のものなどは配置を変えられるよう更に一つ一つ別のパーツに分かれています。
また、⑦⑧⑨のパーツを屋外が見えるガラス張りの絵に差し替えれば公開録音スタジオに流用できるなど、パーツごとに分けておくことは素材としての再利用にも便利です。
そのままラジオスタジオの画像を例にとりますが、そのレイヤーや格納したフォルダのツリー構造、階層構造は画像の様になっています。
前項で見た9つのパーツがそれぞれのフォルダ内で1)で説明したレイヤー順に並んでおり、表示優先順に連なる階層であるのがわかると思います。
この時に大事なのが、手間でもレイヤー名、フォルダ名を後から見ても判別可能な名前にリネームしておくことです。
作業としてはレイヤーをベタ置き、リネームもしない方が圧倒的に作業スピードは上がりますが、その場合、処理の変更(単行本収録時の描写変更など)の際に何をどういじればいいのか描いた本人でも判らなくなります。こうしたリネームにかかる手間も作業時間に含まれることを何卒ご理解いただきたいと思います。
上記のような手順で作られた背景作画は素材として再利用ができます。
特に自然物のパーツは人工物よりもパースの制限を受ける範囲が狭いので、書き割りの様に組み合わせての再利用ができます。
この森林の画像三種はその再利用の実例です。
いずれも、一部の描き起こし部分を除いて、ほぼ同一の複数の素材を組み合わせて三種類の別場面の森林を描出しています。
一度作画した素材の再利用はアナログの漫画製作現場でもコピー、あるいはコピートーンなどの利用で以前より行われてきました。しかし、それらの方法は画質の劣化や紙を重ね切る貼るという物理的限界を伴うものでした。
ですが、デジタルでならこの森林の場合の様にそうした制約を受けないだけでなく、変形等の加工を含むアレンジ込みの再利用が可能となります。
漫画原稿製作がデジタルとなり、背景その他の作画は素材製作の性格を強めたと言えるでしょう。
背景作画はコマ内の人物以外の余白を埋める作業から、キャラクターを自在に乗せて配置を動かせる舞台装置へと変わり、アニメの背景美術に近い性質を持ったと言えるかもしれません。